今年のプロ野球で最も大きな出来事はやはり・ウラディミール・バレンティンのホームラン記録更新だと思います。
そんな中、55号ホームランボールを捕球したヤクルトファンが、バレンティンに記念ホームランボールを返したことが話題になりました。
1998年にマーク・マグワイアがロジャー・マリスの記録を更新するシーズン62本塁打を放った時に拾った人も、「このボールはあなたのものだと思う」と言って、マグワイアに返しました。
その時に素晴らしい話だと思っていましたが、我が国日本でも同じようなことが起きて本当に良かったと思っています。
日本ではカブレラやローズの時と同じく話題となるのは「56号ホームランボールの価値」。しかし騒ぐ間もなくバレンティンは56号→57号とホームランを連発していきました。
なによりもリアルタイムでこのホームラン記録更新を見られたことは人生において非常に価値のあることだと思います。
↑MLB第1号ホームランを放った試合の未使用チケット
↑シーズン本塁打記録更新となった56号&57号ホームランを放った試合の未使用チケット
海の向こうアメリカ・大リーグでは、2007年当時、ボンズの756号ホームランボールに対して1億円を超えるオファーが続出。
新聞の報道によるとハンクアーロンが持つ755本の通算本塁打記録に挑むバリーボンズの記録達成のホームランボールに対して、テキサス州のオークション会社「ヘリテージ・オークションギャラリー」が1億2000万円で買い取ると発表したのです。
ベーブルースの記録を超えた715号目のホームランボールはオークションにかけられ約2500万円、シーズン最多本塁打となった73号ホームランボールには約5000万円の値段がつきました。
ちなみに98年のマーク・マグワイアの70号ホームランボールは約3億円で落札されました。(ちなみにマグワイア70号&ボンズ73号の落札者はアメリカの人気漫画「スポーン」の作者トッド・マクファーレン氏)
ボンズの73号ホームランボールに関しては、アレックス・ポポフさんとパトリック・ハヤシさんがそのボールの所有権を裁判で争い、結局双方がオークションで売れた金額を山分けすることで決着。しかし1億円ゆうに超えると思って争っていたボールは、結局5000万円ほどにしかならず、双方2500万円ずつ。
お互いが1億円以上だと思って裁判で争ってきたので、裁判費用のほうが高くついてしまったのではという見解すらあったほど、衝撃的な結末に終わった。(この出来事はアメリカで映画化されている)
この類の記念ボールは、個人的には野球殿堂へ入ることべきだと願っている。
実際、98年にマグワイアがロジャー・マリスの持つシーズン61本塁打に挑戦していたときも、そのボールの価値について報道が過熱していました。結局、62号は、マグワイアらしくない低い弾道でのホームランだったため、ブッシュスタジアムの観客のいないところに飛び込み、ボールは野球殿堂入りとなったのです。61年にロジャー・マリスがベーブ・ルースの60号本塁打を更新したときは、資料も手元にないので正確なものかどうかはわかりませんが、ロジャー・マリスの61年のホームラン記録への挑戦をテーマにした映画『61*』では、61号ホームランボールを拾った観客が登場し、報道陣にホームランボールの今後について尋ねられるとボールは売って、家のローンにあてると発言しています。マリスもそれに対して彼の役にたててうれしいとコメントしていました。真実かどうかは不明ですが、真実をもとに作られた映画なだけに信憑性も高いのではないでしょうか。
売るという話ばかりが取りざたされますが、ボンズの名づけの親でもありボンズが最も尊敬するウィリー・メイズの660本塁打を抜く時にも、記念ボールを拾おうとライトスタンド後ろにある海にはボートで多くのファンがスタンバイしていました。
すると660号を取ったラリーエリソン氏は、なんと大のジャイアンツファンでこのボールをボンズに返したのです!
何千万・何億という数字が空を舞う中、なんとも粋な行動!
しかし、この後とんでもないことが起こります!
661号目のボールもラリー・エリソン氏が拾ってしまったのです!
今度はボンズから、661号はエリソン氏が持っているようにと言われた!
ココ数年、必ず記念ボールの値段報道が巻き起こるが、このエリソン氏の出来事ももう少し扱って欲しかった!
やはり記念ボールとは、記録を達成した本人よりもその価値を見出せる人はいない。そして次にその価値を見出せるのは野球殿堂博物館だと思う。
一般のコレクターが持っていたところで、その価値を持て余してしまうのではないかとボクは思う。2007年当時、日本でも同様にクルーンの161kmのボールや、カブレラやローズの56本目のボールの価値についてスポーツ新聞なんかの記事に取り上げられていたが、取材をうけていたスポーツグッズ鑑定士の方はそのボールの価値は「汚れたNPB球」の価値と記していました。
まさにそのとおりだと思う。本人が持っているか、もしくは博物館に所蔵されなければ所詮は自己満足のこもったボールでしかない。時間がたてばその証明も徐々に難しくなってくる。
そういえば以前、幻の名投手・沢村栄治のゆかりの品を探していた頃がありました。
別に手に入れようとは思っていた訳ではありません。
むしろ、それが売っていたらとても私が買えるようなモノでもありません。
プロ野球誕生70年となった2004年のある記事では、その頃、マスコミにほとんど姿を現さない沢村栄治夫人と長女がインタビューの中で答えているには、戦中戦後の物資の少ない時代に、沢村栄治の2着あったユニフォームは長女・美緒さんの服に、初代MVPのメダルは夫人の祖母の入れ歯になったそうです。
幻の名投手の使用した用具は、すべて生活必需品に変わってしまったのです。
しかし、よくよく考えてみれば食べるものにも困っていた戦後、いくら沢村栄治のユニフォームといえども衣食住に勝る訳がありません。私はこの記事を読んだ時、探し続けてきた野球殿堂ですら見たことのない幻の用具が存在しない事実を知り、残念に思ったのと同時に、幻の用具は、戦後まもない時期に最も価値のある日用品へと変わっていたのだと・・・
実は私も自分の記念すべきボールはいくつか持っている。例えば、私が草野球の大会で初めてノーヒットノーランを達成した時のボール。
選手の中の一人が、試合後に私に手渡してくれました。
私以外の人からしてみれば全く価値のないふるぼけたボール、でも私にとっては思い出こもった宝物です。
物の価値なんていうのは、その人ごとその瞬間ごとに違います。
リーマンショック以前、アメリカの絵画オークションでは、ユーロ高や好景気、中国人富裕層など世界的な金持ちによって多くの作品で最高値を更新し続けました。
一方、それと同じ時期に食べるモノ着るモノに困っている人たちがたくさんいるのもこの地球上の皮肉なところ。
『世界がもし100人の村だったら』では、富についてこのように説明しています。
富のうち6人が59%を持っていて、これはアメリカ人。
74人が39%の富を持っていて、20人は2%の富を分け合っているといいます。
この20人からしてみれば、ボンズのボールよりも何億の絵画よりも、着る物食べる物のほうがよっぽど価値があるのです。
そう考えると改めて、こう思います。
『モノの価値っていうのはわからない・・・』