スポーツイラストレイテッド
Sports Illustrated
アメリカで1954年8月16日に創刊された週刊スポーツ雑誌だ。
「SIの価値は【表紙】にあり」といわれることからもわかるように、表紙こそSIの最大のこだわりなのだ。
ポスターなどのインテリアのように使いもよし、サインをもらう土台に使うもよし、その用途は一雑誌の範疇を越えているのだ。
日本ではあまり馴染みの薄いSI誌だが、"not A sports magazine, but THE sports magazine"というキャッチコピーのとおり、一スポーツ雑誌ではなく「スポーツ雑誌=Sports Illustrated」なのだ。もちろん本場アメリカではメモラビリアの人気ジャンルとして扱われるほどのコレクターズアイテムでもあるのだ。
創刊から2015年までに表紙を飾ったスポーツ選手ランキング1位はマイケル・ジョーダン(NBA)の50回、2位がモハメド・アリ(BOXING)、3位はタイガー・ウッズ(Golf)の24回となっている。
表紙を飾ることは大きな名誉であるが、日本人で表紙を飾った人物も数人いる。
昨日に引き続き、スポーツイラストレイテッドについて書いていこうと思う。
アメリカ野球を大きく変えたのが、ベーブ・ルースというホームランキングの登場だ。
それまでの名選手といえばタイ・カッブでありジョー・ジャクソンであり、ベーブ・ルースが登場するわずか数年前に4年連続ホームラン王(1911〜14年)ホームラン・ベーカーと呼ばれたフランク・ベーカーがホームランを最も放ったシーズンですら12本塁打だったことからも、ベーブ・ルース登場以前のメジャーリーグにおいては、ホームランは非常に珍しいモノであったことがわかる。
さてベーブ・ルース登場後のメジャーリーグではホームラン時代が到来し現在に至っていると言っても過言ではない。
そのアメリカ野球の象徴・ホームランの記録は、シーズン最多本塁打記録・通算本塁打記録ともにベーブ・ルースが保持していた。1961年に同じニューヨーク・ヤンキースに所属していたロジャー・マリスがシーズン61本塁打を放ち、ルースの記録を更新したが、ルース時代と試合数が違うとマリスの記録に【*(注釈)】がつけられ、80年代後半頃まで2つのシーズン本塁打記録が記載されていた。そして通算ホームラン記録もまた記録もまた破られる日がやってきた。1973年シーズンを終了して【713本塁打】のハンク・アーロンは嫌がらせや脅迫を受ける中、1974年4月4日に通算714号本塁打をルースの記録に並び、4月8日に通算715号本塁打の新記録を樹立したのだ。(ちなみに記念のホームランボールをキャッチしたのはブルペンにいたのちに名投手コーチとなったトム・ハウスだった) その後、アーロンは通算755本塁打まで記録を更新した。
すべての110年以上の歴史を誇るメジャーリーグで、どんな記録であれ新記録を樹立することは大変なことだ。
その中でもホームランの記録に関しては別格といえる。
前置きは長くなってしまったが、SI誌に野球選手として初めて表紙を飾った日本人こそ世界のホームラン王・王貞治氏(現・福岡ソフトバンクホークス会長)である。
1977年8月31日に通算755本塁打を放ちハンク・アーロンの記録に並ぶと、9月3日に通算756号本塁打を放ちハンク・アーロンの記録を塗り替え世界新記録を樹立したのだ。
この快挙がSI誌の表紙を飾ったと思いきや、王貞治氏が表紙を飾ったのは1977年8月15日号。
つまり【王貞治がハンク・アーロンのホームラン記録を壊そうとしている】ということで表紙を飾り、王貞治特集が組まれているのだ。
これが日本人野球選手初のSI誌の表紙を飾ったことを考えれば、この出来事がいかにアメリカにとっても注目されていた出来事であったことが伝わってくる。
記録を達成した後ならまだしも、これから記録が破られるというのだから。
現在でも日米野球などでメジャーリーガーたちが来日すると王貞治氏にサインをもらいに来る選手も少なくない。
しかしメジャーリーグではない王貞治氏の記録を認めないという声があることも事実だ。我々日本人からするとそんな声に対する反論が喉元まででているが、このような声は王貞治氏に限ったことではない。
ロジャー・マリスがシーズン本塁打記録を認めてもらえなかったことは前述のとおりで、ハンク・アーロンも多くの差別や批判があった訳だ。
1998年にマーク・マグワイアとサミー・ソーサが本塁打競争をしてマグワイアがマリスの記録を更新し70本塁打の記録樹立し、ソーサも66本塁打を放った。2007年にバリー・ボンズがハンク・アーロンの755本塁打を更新し756本目を放った。
しかし、マグワイアもボンズも薬物使用によって樹立した記録であり、記録は認めないという声は絶えない。
ボンズの通算本塁打記録に関しては756号の新記録のホームランボールを75万2467ドル20セント(約8600万円)で落札した人物がアンケートを実施し、そのアンケートの結果【*注釈】をつけて野球殿堂博物館に寄贈されることとなった。
ホームランにまつわる記録において【認めない】という声は、王貞治氏の前にも後にも常につきまとう。
それだけホームランはアメリカの野球ファンにとっては他のどの記録以上に思い入れのある記録なのだろう。
記録達成前にSI誌の表紙に王貞治氏をもってきたのも納得できる。