野口二郎が亡くなった・・・
おそらく現代に野口二郎という投手が存在していれば、年俸10億円プレイヤーになっていただろう。
あれだけの鉄腕は世界中の野球界を探してもなかなか見つからない。
私が思うに昭和初期の日本という環境が育てたスーパースターだった。
そのプレイヤーの訃報の記事の小ささに驚いているのと同時に、今の野球ファンからすれば野口の訃報よりも松井のヒットの記事のほうが求められているそんな寂しさを感じた。
実際に03年に小鶴誠が亡くなられた数日後、小鶴と同時期にプロ野球選手だった方に小鶴の凄さを聞くと、やはり私が調べてきた小鶴誠と同じく偉大な選手だった。
あの時の小鶴の訃報の記事もとても小さなもので、昭和野球の好きな私にとっては無性に悔しさを感じていた。
話は多少ずれるが、私は学生の頃、秋葉原好きの友人の秋葉原の旅に付き合っていた。
帰りは決まって神保町まで歩いてきた。そんなある日、神保町である1冊の本を見つける。
大和球士の【真説野球史】というシリーズ本だ。
それを立ち読みしていると、その内容の凄さに驚かされた。
なんせ明治から戦後のあたりまでをシリーズで網羅しており、内容もその日その時何が起こったか克明に書かれている。この頃、ボクは野球が好きと言いつつもやはり自分の目で見てきた80年代以降のプロ野球についての記憶・知識ばかりだっただけに、明治初期から自分が見たことも聞いたこともない球史は非常に興味深いものであった。日本野球誕生のいくつかの説やインブリー事件など、インターネット従量制だった当時、なかなか得ることの出来ない情報に興奮し、金もないのに全巻買ってあっという間に読破してしまった。
それからというもの、私は文学部でも作家でも無いのに何気に神保町の本屋街に出没していた。
特に授業が無かった日は、神保町に出没しては昔の野球の著書を探していた。
そのうち、古本市の目録なんかも取り寄せたりして、そして実際に古本市にも脚を運び、とにかく完全自己満足趣味である野球研究の資料を集め続けたのだ。
そんなある時ふとある記事に気がついた。
01年の野球殿堂の本を読んでいると、野口二郎や小鶴誠らの出生年は書いてあるのだが、没年齢が書いていなかったのだ。
当時の私は、昭和初期のこれほどの大物プレイヤーがまさか存命しているとは思っても見なかったので、また興奮してしまった。
テレビ解説にも出てこない・スポーツ新聞の評論も出てこない。
それ以外にも1934年の日米野球メンバーだった苅田久徳が存命だったことは知っていたが私が知らなかっただけで昭和の怪物たちは表舞台には出ていないだけだったのだ。
そういえば近所に住んでいた元プロ野球選手も終戦直後、当時プロ野球よりも人気の高かったといれる六東京六大学のスター選手だったことには非常に驚いた。
昭和20年代前半の月刊誌『野球界』や『ホームラン』の記事には、巻頭付近に記事が出ていたほどだ。
それだけのスター選手にも関わらず、殿堂入りが決まった直後におめでとうございますというと、「長くやってただけだよ!」って笑いながら。
恐らく今の選手達から殿堂入りした直後にこんな謙虚な一言は出てくるだろうか?そして謙虚にしても、なんともいえない人間味の溢れ出たカッコよさが漂っていた。色々な昭和の名選手の逸話なんかも読んできてもやはりそういう選手が多かったのではないか。
やはりそんな時代の野球の歴史は本当に面白い。プロ野球は明治以降に日本で誕生したが、常に様々な政治・外交・軍事そして社会的な背景に大きく影響されてきた。
野口二郎の延長28回も戦は勝ちか負けかで引き分けはなく、勝負がつくまで闘うべきといった時代的背景によって誕生した記録であり、その結果超人的な記録へと結びついたのだ。
また一人、昭和野球の怪物が逝ったことを非常に残念に思う。
ただ、日本のファンは死んで初めて凄さを知ることが多い。これは芸能人なんかに関しても同じだろう。
しかし、これだけの大物の訃報の記事があれだけ小さくなってしまえば、甲子園史上最強と呼ばれた中京商業、プロ野球でも数々の大記録をつくりあげた昭和の怪物も遠い将来「無名の怪物」になってしまうのではないかと危惧している。
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