もし戦争がなければ日本の野球はどうなっていただろうか？
そんな『もし』に関する意見を聞かれたことがある。
しかし、その『もし』はあまりにも想像が難しい『もし』であり答えることは出来なかった。
1957年1月12日、自動車を運転していたビクトル・スタルヒンは東急玉川線に衝突し、この世を去った。
40歳だった。
スタルヒンほど20世紀に翻弄された野球人はいない。
革命派から逃れる為、極寒のシベリアを越え日本統治下の満州ハルビンへ。
1925年日本へ亡命し北海道旭川に移住する。
時は経ち、彼は学業優秀で運動神経もよく、野球で名を馳せるようになる。
1934年にベーブ・ルースが来日し日米野球が開催されることになり、読売新聞社はなんとしてもスタルヒンを日本代表に召集したかった。
しかし野球統制令のしばりもあり、スタルヒンを召集するには彼を中退させる必要があった。
スタルヒン自身も旭川中学みんなで甲子園に行くことを望んでいたため交渉は難航。
とうとう強行手段に出る。
亡命者のスタルヒン一家を国外追放、ソビエトへの強制送還をちらつかせ、ついに彼は日本代表入りする。日米野球第17戦に初登板した彼の１球目はバックネットに突き刺さる怒りを込めた渾身の大暴投だった。
そこから彼のプロ野球生活はスタートした。
しかし戦局が悪化し始めると1944年のシーズン途中から国籍(無国籍)を理由に出場停止され軽井沢で軟禁される。
戦時中の彼は『須田博』と名前まで変えさせられていた。
終戦後に彼は巨人軍からの誘いを断り、晩年は巨人軍時代の恩師・藤本定義監督と設立したばかりのパシフィックリーグでプレーした。
通算303勝は当時の日本記録。通算83完封は不滅の日本記録である。
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